探鉱鉱区入札プロジェクトへ集った
意志と技術

北村:私は2004年に新卒でコスモに入社し、最初は大阪支店で産業燃料の営業をしていました。その後アブダビ石油に異動し、会計・経理・総務等の仕事を経験しました。次に日本でコスモ石油の経営企画で渉外・海外企画を担当、その後会長秘書を務めました。2017年の7月からコスモエネルギー開発に異動し、そこからこのプロジェクトがスタートしました。

立尾:私は2009年に新卒で入社し、2014年まで堺製油所でプロセスエンジニアの仕事をしていました。FCC装置やアルキレーション装置を担当し、省エネや新規投資、競争力強化などさまざまなプロジェクトを担当しました。プロセスエンジニアという仕事は本当に奥深く魅力的な仕事だったのですが、「原油を生産する仕事に関わりたい」という思いを入社した時から持っていました。大学・大学院では地質について研究をしており、2014年頃がちょうどコスモエネルギー開発でヘイル油田の開発がスタートするタイミングでもあり、上司・会社に希望を伝え、2014年の定期異動でコスモエネルギー開発へと異動しました。

アブダビに赴任し、現地の鉱業所で地質エンジニアとして仕事をしました。地下に油やガスがどれくらいあるのか、どうやって生産すればよいかを評価・検討する仕事で、ヘイル油田の開発に最初から最後まで関わることができ貴重な経験を積むことができました。2019年に北村さんと同じ、コスモエネルギー開発の企画部に配属になり、今回のOffshore Block 4 のプロジェクトに加わりました。

北村:もともと私がコスモエネルギー開発に異動してきた2017年頃から、原油生産量の中長期的な維持・拡大に向け今回のエリアを狙いたいという思いを持っていました。その中で公開入札になるという情報を得て、準備を進めていきました。立尾さんがアブダビ石油で経験を積まれていたので、立尾さんの地質エンジニアとしての専門性を今回のプロジェクトで活かしてもらいたいと思い、来て頂きました。

プロジェクトの中核メンバーは、私と立尾さん、そしてあと2人の計4名です。もちろん、私たち4名だけで進めたわけではなく、様々な分野のエキスパートの方々から力をお借りして進んでいったプロジェクトです。

今回は「探鉱」(鉱区内のどこに石油が貯留しているか調査する段階)というステージの入札案件だったので、地下に油やガスの埋蔵量について入札に参加する企業それぞれが独自に評価を行っていきました。当社も既存の二次元地震探査データやすでに掘られている数少ない井戸のデータをもとにして地下全体の埋蔵量を評価していきました。

見えない地下を見える化していく

立尾:今回の鉱区は4,865平方キロメートル、東京都の約2.2倍の広さでした。しかし、これまでに数本の井戸しか掘られておらず、地下の情報が非常に少ない状況でした。データをもとにしながら見えない地下を見える化していくというのは非常に難しい仕事でした。また、埋蔵量の予測に不確実性がある中で、開発するためにはどんなプランがいいのか、どれくらいの投資額が必要か、得られる利益はどれぐらいか、どんなリスクが潜んでいるかというさまざまな観点から検討をしていきました。

北村:非常に難易度の高い評価・検討でした。立尾さんが学ばれてきた地質学における専門性、ヘイル油田での経験を活かして質の高い評価を進めてくれました。

立尾:北村さんが今回のプロジェクトマネージャーで、経済性評価のとりまとめや入札額の検討、契約の交渉などを進めてくれました。

北村:当然、入札という形なので私たち以外にも入札を検討する企業があったと思います。ただ、実際にそういう存在がいるのかどうか、果たしてどこがその企業なのかということは明らかにされていません。今回とは別のブロックでは、イタリアやタイの国営企業やアメリカの大手石油会社などが落札しているので、グローバルな企業が相手だったとは思いますが詳細は明らかになっていません。

リスクを背負ってでも、チャレンジする

北村:私たちが評価や検討を初めた時期が2019年、産油国との協議が始まったのが2020年でしたが、当時は社会が激変している状況でした。世界中での新型コロナウイルス感染拡大に伴い油価が暴落したり、エナジートランジションという文脈で脱炭素が声高に訴えられている時期でもありました。そんな中で、新たな鉱区を取得するという挑戦に向けていかに社内合意を形成していくかということも重要でした。

立尾:石油開発というのは、直接目に見えない地下深くのものを扱うという特殊な事業です。技術評価の精度が非常に重要になりますし、その上で取得後の開発施設の検討なども含めた経済性のシミュレーションをし、社内外のさまざまな人にどう理解してもらうかというのは非常に苦労した点でした。

北村:コスモの経営陣に対して、評価結果を踏まえてプランを提示していきました。非常にチャレンジングな取り組みでありリスクのある事業なので、当然経営陣も慎重に検討をしていました。

立尾:社長の桐山をはじめ、コスモの経営陣との議論はとても印象的でした。私たちの提案に対して「ならぬものはならぬ」というようなことは一切なく、とてもフラットでニュートラルに判断し、フィードバックをくれました。議論のたびに宿題をもらいそれに応えていく形で、何度も議論を重ねていきました。

北村:評価の段階から、埋蔵量の想定、経済性のシミュレーションなど、段階が進んでいくごとに資料をまとめ、報告と議論を重ねていきました。社長自身も、コスモの中で様々なプロジェクトに関わってきたので、ご自身の経験なども話してもらったうえで、アドバイスやフィードバックをもらいました。様々な点を慎重に検討したうえでではありますが、基本的に「チャレンジする」ということに対しては大きな後押しをもらえて、それは私たちプロジェクトメンバーの勇気にもなりましたし励みになりました。

北村:新型コロナウイルスの世界的感染拡大という時期だったので、アブダビ国営石油会社(ADNOC)との協議は、全てオンラインのビデオ会議で行われました。
協議する事項は多岐にわたり、かつシビアな交渉でもありますので、対面で行えることが一番よいのですが、ADNOCは「新型コロナウイルスを一切持ち込まない」という方針でしたので、オンラインでの交渉が続きました。本当に想像もしていなかった事態ではありましたが、きちんとこちらの意図が伝わるように対面での協議以上に準備して、丁寧なコミュニケーションを心がけました。

困難を乗り越え、辿り着いた基本合意

北村:プロジェクトチームとしての評価、コスモ経営陣との議論を何度も何度も重ねた上で入札を行いました。その後ADNOCから連絡があり、契約交渉を行いました。詳細はお伝えできないのですが、オンライン会議、その後の電話での協議を繰り返し行い、そして最終的にメールで基本合意を確認したのは、具体的な契約書の協議を開始してから約1か月たった、日本時間で深夜1時でした。今まで自分が仕事をしてきた中で味わったことのない達成感と安堵感でした。メールの時間は00時51分。今でもこの時間を覚えています。

立尾:しびれましたね。私も「何とかここまでやり遂げた」という達成感と安堵感を感じました。北村さんがギリギリの交渉をしていることもわかっていて、合意ができなければ撤退もありうるという緊張感の中だったので、本当にしびれました。

北村:今回取得した鉱区はアブダビ石油の鉱区に隣接しています。アブダビ石油はアラブ首長国連邦の中でも、「井戸から出荷施設まで」を全て自社で操業している唯一の企業です。今回の鉱区から商業生産可能な原油・ガスが発見された際には、アブダビ石油の生産・貯蔵・出荷施設を共同で活用することが期待できます。開発・操業コストを大幅に低減することができ、大きな競争力の強化に繋がると考えていました。その念願に大きく一歩近づくことができたことは、本当に達成感がありました。

立尾:探鉱利権協定の締結は落札までのプロジェクトの終わりでもあり、新たなプロジェクトの始まりでもあります。これまでは限られた情報の中での評価でしたが、これから三次元地震探査と呼ばれる最新の技術を駆使した追加の検討・研究を進めていき、井戸を掘る本格的な評価が始まります。

厳しく、楽しく、未来を切り拓く

北村:私も立尾さんも、引き続きこのプロジェクトを推進していきます。鉱区の取得という一区切りを経て、改めて今回の取得の意義についてエナジートランジションという観点からも思うことが2つあります。

1つは、現在がエナジートランジションの「移行期」であるということ。その中で、低い生産コスト・開発コストが期待できる鉱区を獲得できたことに意義があると思います。世界中至るところでの環境課題が連日ニュースになる中、エナジートランジションを実現していこうという方向性について、私たちも全く異議はありません。ただ、当然「明日から変えよう」とはいかないのが現実で、現在は「移行期」です。新しいエネルギーへと移行していく中で、未来へと繋ぐ役割を果たせると思っています。

もう1つは、コスモの石油開発における徹底的な環境対応です。アブダビ石油では海上油田におけるゼロフレア化を実現しており、油田掘削時に発生する廃水等を地中に圧入するゼロディスチャージオペレーションという対応も行います。技術によって環境負荷を極限的に減らし、社会と共存できる事業を目指します。

立尾:2015年のヘイル油田での石油開発において、ゼロディスチャージオペレーションを実施している時に立ち会いました。ヘイル油田はUNESCOに登録された環境保護区です。沖縄のような綺麗な海で、美しいサンゴ礁と近くにはジュゴンも泳いでいました。そんな場所で無事に操業をすることができたことは、私たちの誇りでもありますし、これからのOffshore Block 4においても、同様に環境に優しい操業を実現したいと思います。

北村:無事に鉱区を取得という結果になりこれからもプロジェクトは続いていきますが、本当に印象深い仕事でした。落札するまでの過程においても、実は社内のいろいろな人たちから応援を頂きました。また、若手の方を中心に「プロジェクトチームに入りたい」というメッセージを頂くこともありました。大きな期待をされていて、コスモの未来を切り拓くプロジェクトなんだと改めてモチベーションが高まったことを覚えています。

振り返ると苦しいことだらけで、達成感を感じられたのは一瞬です。でもそのかけがえのない一瞬のために、歯を食いしばって仕事をしてきました。私たちだけでは決して実現できなかったし、歯を食いしばって「逃げない」という姿勢でいたからこそ、たくさんの方が力を貸してくれたのだと思います。わからないことや確かめたいことがあれば、技術、経理、財務、法務、監査など、本当にありとあらゆる部署の人たちに話を聞きに行きました。そこでいろんな人が力を貸してくれて、そのたびにプロジェクトに光がさして、楽しくなっていく。桐山社長がかつて「仕事は厳しく、楽しく」と話していたのですが、本当にその通りだなと実感します。

立尾:本当にそうですね。私も何事も「楽しむ」を仕事のモットーにしています。製油所時代も、ヘイル油田も、今回のプロジェクトも、悔しい思いをたくさんしましたし逃げ出したくなるような瞬間もありました。けれど、やっぱり歯を食いしばって、仲間とハイタッチする瞬間を想像して前に進んできました。なんとか乗り越えたら、自分も、仲間も、きっと家族も、喜んでくれる。そのために、決してうつむかずに顔を上げて立ち向かう。これからも、そうやって仕事をしていくと思います。

北村:まだ先が長い仕事ですが、このプロジェクトがコスモと日本のエネルギーの未来に繋がると信じて、厳しく、楽しく、仕事に取り組んでいきたいと思います。


写真はヘイル人工島周辺の美しい海

※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所などは公開当時のものです。